ワンちゃんの病気

食欲がない（食欲不振）

消化器疾患

誤食、人間の食べ物、ウイルス（パルボウイルスなど）、細菌、寄生虫の感染、食物アレルギーなど、様々な原因で起きます。消化器疾患では食欲不振とともに、嘔吐、下痢、腹痛などの症状を伴うことが多く、嘔吐や下痢が続くと脱水症状も引き起こします。急性胃腸炎は多くの場合、適切な治療で数日以内に回復しますが、慢性化する場合は炎症性腸疾患（IBD）や膵炎などの可能性も考えられます。

口腔疾患

口の中に痛みや不快感があると、食べたい気持ちがあっても、食べることが困難になります。歯垢や歯石が蓄積して歯周病が進行したり、口内炎や口腔内の腫瘍ができることがあります。食欲不振のほかに、口臭が強くなる、よだれが増える、硬いものを食べにくそうにする、食べ物をこぼすなどの症状が見られます。口の中をしっかり観察しなければ初期には気づきにくいため、食欲不振になって初めて口腔内の問題が発覚することもよくあります。

腎臓病や肝臓病

腎機能や肝機能が低下すると、体内の老廃物がうまく処理できなくなり、食欲不振や吐き気、元気消失などの症状を引き起こしますが、初期は無症状なことも多いです。重症化すると水分摂取量や尿量が増える（多飲多尿）、体重減少、黄疸（肝臓病）などの症状が見られることがあります。血液検査やエコー検査、尿検査などで腎臓や肝臓の状態を知ることができます。

これらの病気以外にも、膵炎、子宮蓄膿症、悪性腫瘍（がん）、異物誤飲・誤食など、食欲不振の原因となる病気は様々です。

下痢をする

胃腸炎（食事性、ストレス性、感染性など）

拾い食い、ストレス、急な食事変更、ウイルス・細菌・寄生虫感染などが原因で、胃や腸に急な炎症が起こります。通常、嘔吐や下痢を伴い、血便が出ることもあります。多くは数日で改善しますが、パルボウイルスなどの感染症では重篤化し、激しい血便や脱水を起こします。

炎症性腸疾患（IBD）

免疫の異常により、消化管に慢性的な炎症が起こる病気です。下痢や嘔吐、体重減少などの症状が長期にわたり、良くなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。診断には組織検査が必要で、食事療法や免疫抑制剤で治療されます。

膵炎

高脂肪の食事や肥満などがリスク要因とされ、ホルモン疾患などほかの疾患に併発することがありますが、原因不明なことも多いです。膵臓で作られる消化酵素が、膵臓自体を消化してしまい炎症を引き起こします。激しい腹痛（お腹を丸める、祈りのポーズ）、嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失などが同時に現れることが多く、重症化すると命に関わります。胃腸炎と症状が似ているため、区別するために血液検査や超音波検査を行います。

嘔吐する

異物誤飲・誤食

犬が食べ物ではないもの、例えばおもちゃ、布、靴下、骨、プラスチック片などを飲み込んでしまい、それが胃や腸に詰まることで起こります。異物が消化管を通過できなくなるため、食べたものを繰り返し吐き戻すことが多いです。食欲不振や元気消失、腹痛、便が出ないなどの症状も伴います。異物が完全に詰まってしまう「腸閉塞」は、食べ物や水分が全く通らなくなり、腸が壊死するリスクもあるため、非常に緊急性の高い状態です。レントゲンや超音波検査で異物の有無を確認し、内視鏡での摘出や外科手術が必要になることがあります。

腎不全（急性腎障害、慢性腎臓病）

腎臓の機能が低下し、体内の老廃物や毒素を十分に排出できなくなることで起こります。急性腎障害と慢性腎臓病があり、仔犬や成犬では感染症・中毒・尿管結石など、高齢犬では慢性腎臓病が一般的です。慢性腎臓病は初期には気づきにくいですが、進行すると食欲不振、嘔吐、多飲多尿、口臭、貧血などの症状が現れます。嘔吐は、老廃物が体に蓄積し、吐き気を引き起こす「尿毒症」のサインとして現れることがあります。血液検査やエコー検査、尿検査で腎臓の状態をを確認し、診断します。

これらの病気以外にも、食欲不振や下痢・血便を起こす病気と重複する部分があり、胃腸炎、炎症性腸疾患、膵炎、子宮蓄膿症、悪性腫瘍（がん）、肝炎、肝不全など、食欲不振の原因となる病気は様々です。

咳が出る

気管虚脱・気管支虚脱（気管支軟化症）

気管や気管支を支える軟骨が弱く押しつぶされて（虚脱して）しまう病気です。遺伝的な要因や肥満がリスクを高めます。気管虚脱は、興奮したり、リードで首を引っ張られたりしたときに咳が出やすく、重症化するとガーガー、ヒーヒーといったアヒルの鳴き声のような呼吸や、呼吸困難を引き起こすこともあります。咳は良くなったり悪くなったりする慢性的な経過をたどることが多いです。診断は、触診やX線検査で行います。

犬伝染性気管気管支炎（ケンネルコフ）

ウイルス（パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなど）や細菌（ボルデテラ・ブロンキセプティカなど）の感染によって起こる上気道の感染症です。「カハッ、カハッ」と何かを吐き出そうとするような激しい乾いた咳を突然発作的に繰り返します。咳の後に少量の痰を吐き出すこともあります。発熱や鼻水などの風邪のような症状を伴うこともあります。

特徴：感染力が非常に強く、ドッグラン、ペットホテル、動物病院など、多くの犬が集まる場所で感染が広がりやすいです。通常、ワクチン接種で予防が可能です。症状は数週間で自然に治まることが多いですが、仔犬や老犬では重症化することがあります。

心臓病（僧帽弁閉鎖不全症など）

特に高齢の小型犬に多い僧帽弁閉鎖不全症などにより、心臓の機能が低下し、肺に血液や水分がたまる（肺水腫）、あるいは心臓が拡大して気管や気管支を圧迫することで咳が出ます。「コンコン」という湿った、あるいは乾いた咳をします。特に夜間や安静時に悪化しやすいのが特徴です。病気が進行すると、運動を嫌がる、疲れやすい、舌の色が悪くなる（チアノーゼ）などの症状が見られます。僧帽弁閉鎖不全症は初期から心雑音が聴取されることが多いため、聴診が早期発見に役立ちます。咳が続く場合は、レントゲン検査やエコー検査などで心臓や肺の状態を確認する必要があります。

水をたくさん飲む・尿量が多い（多飲多尿）

腎不全（慢性腎臓病）

加齢などにより腎機能が低下し、尿を濃縮できなくなることで、多量の薄い尿を排出するため（多尿）、飲水も増えます（多飲）。高齢犬に多く、進行すると食欲不振や嘔吐を伴います。一度失われた機能は戻らないため、食事療法と投薬で進行を遅らせます。

糖尿病

インスリン不足で血糖値が異常に高くなり、尿中に糖が排出されます。浸透圧の影響で水分も一緒に大量に排泄される（多尿）ため、多飲となります。食欲増加と体重減少が同時に見られるのが特徴です。治療にはインスリン注射と食事管理が必要です。

クッシング症候群（副腎皮質機能亢進症）

副腎皮質からコルチゾール（ステロイドホルモン）が過剰に分泌されることで起こる内分泌疾患です。過剰なコルチゾールは尿量を増やし、その結果、多飲になります。他に食欲の異常な増加、腹部の膨満（お腹が垂れる）、背中などの脱毛、皮膚が薄くなる、パンティング（口を開けて呼吸）が増えるなどの症状が見られます。中高齢犬、ミニチュア・プードルやダックスフンドなどで発生が多いです。血液検査や特殊なホルモン検査（ACTH刺激試験など）で診断されます。治療は内服薬によるホルモン分泌の抑制が主となります。

体をなめる・ひっかく・かむ（かゆみ）

アレルギー性皮膚炎（アトピー性皮膚炎・食物アレルギー）

環境中のアレルゲン（花粉、ハウスダストなど）や食事中のタンパク質に対する過敏な免疫反応で起こる、慢性の皮膚病です。強いかゆみや赤みが顔、耳、脇の下、足先などに見られます。食物アレルギーでは消化器症状を伴うこともあります。アレルゲンを特定し、食事管理や内服薬、外用薬で症状をコントロールしていくことが重要です。

ノミなどの外部寄生虫症（ノミ、疥癬、ニキビダニ）

ノミ、疥癬（ヒゼンダニ）、ニキビダニ（毛包虫）といった外部寄生虫による皮膚炎です。ノミアレルギーでは腰から尾の付け根に強いかゆみが見られます。疥癬では全身に激しいかゆみが発生し、耳の縁などに脱毛やカサつきが起こります。ニキビダニは脱毛が主症状ですが、二次感染を伴うとかゆみも発生します。特定の寄生虫予防薬を使用することで治療します。

膿皮症（細菌感染による皮膚炎）

皮膚の常在菌が過剰に増殖して起こる感染性の皮膚炎です。強いかゆみとともに、皮膚に赤いブツブツ（紅斑・丘疹・膿疱）やフケ、かさぶたなどが見られます。アレルギーやホルモン疾患などが原因で皮膚の抵抗力が落ちたときに発症しやすい二次的な病気です。原因菌を特定し、主に抗生剤や消毒薬による治療とともに、原因疾患の治療も行います。

しこり・できものがある

脂肪腫

皮膚の下にできる良性の腫瘍で、脂肪細胞が増殖して発生します。柔らかく、触ると皮膚の下で動くことが特徴です。特に高齢犬や肥満の犬によく見られ、多くは痛みはありませんが、大きくなりすぎると生活に支障をきたすことがあります。治療は外科手術による切除ですが、手術せずに経過観察することもあります。

肥満細胞腫

発生頻度が高い悪性腫瘍の一つです。見た目や硬さはさまざまで、赤く腫れたり、潰瘍ができたり、サイズが急に変化したりすることがあります。しこりを触ると周囲が赤くなる（ダリエ徴候）ことも特徴です。早期に転移する可能性があるため、細胞診や生検による早期の確定診断と、外科手術、化学療法などの積極的な治療が必要です。

表皮嚢胞

皮膚の表面の細胞が皮膚の下に袋状に詰まり、中に老廃物や角質がたまってできる良性のしこりです。触ると硬いコブのように感じられ、中央に小さな黒い点（開口部）が見られることもあります。通常は痛みはありませんが、細菌感染を起こすと炎症を起こして赤く腫れ、破裂することがあります。外科的な切除で完治します。

目が充血する、目やにが出る

乾性角結膜炎（ドライアイ）

涙の量が少なくなる、または涙の質が悪くなることで、目が乾燥し、角膜や結膜に炎症が起こる病気です。目が乾燥することで充血や慢性の痛みが生じます。特徴として、粘り気の強い目やにが大量に出ることが挙げられます。涙の量を測る検査で診断し、生涯にわたる点眼薬による治療が必要です。

角膜炎・角膜潰瘍

目の表面にある角膜に炎症や傷（潰瘍）ができる病気です。外傷、異物、ドライアイ、感染などが原因となります。強い目の痛みを伴うため、目を細める、涙を流す、しきりに目をこするなどの症状が見られます。充血し、傷が深い場合は角膜が白く濁ることもあります。点眼薬や内服薬、重度の場合は外科手術が必要です。

ぶどう膜炎

目の内部にある虹彩や毛様体などのぶどう膜に炎症が起こる病気です。目の打撲、感染症、自己免疫疾患、腫瘍など原因は様々です。目の充血や痛み、瞳孔が小さくなる（縮瞳）、目の中に濁りが見られることがあります。放置すると緑内障や失明につながるため、原因の特定と早期の抗炎症治療が重要です。

痙攣（けいれん）が起きる

特発性てんかん

脳に構造的な異常がないにもかかわらず、繰り返しけいれん発作を起こす病気です。遺伝的な要因が関与すると考えられており、一般的に生後6ヶ月から6歳までの若い犬に発症しやすいとされます。発作は通常、意識を失って手足を突っ張らせたり、バタつかせたりする全身性のものが多いです。診断は他の原因を除外することで行われ、内服薬で発作をコントロールします。

脳炎・髄膜炎

細菌、ウイルス、寄生虫の感染、あるいは自己免疫の異常などにより、脳やそれを覆う髄膜に炎症が起こる病気です。けいれん発作のほかに、発熱、首の痛み、元気消失、ふらつき、行動や意識の変化などが現れます。診断にはMRI検査や脳脊髄液検査が必要で、検査のため他院への紹介になります。炎症を抑えるためのステロイドや、感染源に応じた抗生剤などで治療します。

低血糖発作

血液中のブドウ糖濃度が異常に低下する状態です。特に子犬や小型犬、インスリン注射をしている糖尿病の犬、またはインスリンを過剰に分泌する腫瘍（インスリノーマ）がある犬で起こりやすいです。けいれんのほかに、ぐったりする、意識がもうろうとする、ふらつくなどの症状が見られます。糖分を補給することで迅速に回復することが多いです。

耳あかが多い・耳が臭い

外耳炎

耳の穴から鼓膜までの外耳道に炎症が起こる病気の総称です。原因として、アレルギー性皮膚炎、耳ダニ、異物などがあり、二次的に常在菌であるマラセチアや細菌が増えて、マラセチア性外耳炎、細菌性（化膿性）外耳炎になることがあります。主な症状は、耳の強いかゆみや痛み、赤みです。茶色や黄色の耳垢が増え、強い異臭を伴います。原因を特定し、点耳薬や内服薬、基礎疾患の治療が必要です。

中耳炎・内耳炎

外耳炎が重症化したり、鼓膜の損傷などにより、鼓膜の内側にある中耳やさらに奥の内耳にまで炎症が及んだ状態です。通常の外耳炎よりも強い痛みを伴うことが多いです。平衡感覚を司る内耳に炎症が及ぶと、ふらつき、旋回、首の傾きといった神経症状が見られます。紹介先での画像検査（CT、MRIなど）による診断と、長期の内服薬治療や外科手術が適応になることがあります。

耳の腫瘍（耳道腺癌、扁平上皮癌など）

耳の穴の中や周囲にできる腫瘍で、良性（ポリープなど）と悪性（耳道腺癌、扁平上皮癌など）があります。初期には単なる外耳炎と区別がつきにくいことがありますが、抗炎症治療に反応しないしこりや持続的な炎症が見られます。腫瘍が大きくなると、耳道が塞がれて激しい炎症や出血を伴うことがあります。早期の細胞診や外科的な切除が必要です。

口が臭い

歯周病（歯肉炎・歯周炎）

口臭の最も一般的な原因です。歯の表面に付着した歯垢や歯石によって歯肉に炎症が起こり（歯肉炎）、進行すると歯を支える骨が溶けて（歯周炎）グラつきが生じます。口臭に加え、歯肉からの出血や痛み、食欲不振が見られます。進行すると顎の骨折や他の臓器の病気の原因になることがあります。定期的な歯科検診とスケーリングが必要です。

腎不全（尿毒症）

腎臓の機能が低下し、本来尿として排泄されるべき老廃物（尿毒素）が体内に溜まることで起こります。この老廃物が血液中に増加し、呼気に混ざることで、アンモニアのような、または魚が腐ったような口臭を放つことがあります。口臭のほかに、嘔吐、食欲不振、多飲多尿、元気の低下が見られます。輸液や食事療法で治療します。

口腔内腫瘍

歯肉や舌などに良性または悪性の腫瘍ができる病気です。腫瘍が壊れたり、細菌に感染したりすることで、腐敗したような不快な口臭を発生させることがあります。口臭のほかに、口腔内のしこりや出血、よだれの増加、食べにくそうにするなどの症状が見られます。確定診断には組織生検が必要で、早期の外科的な切除が重要です。

息が苦しそう・呼吸が早い

心原性肺水腫

心臓病（僧帽弁閉鎖不全症など）が進行した結果、うっ血性心不全により肺の血管から水分が漏れ出し、肺に水が溜まってしまう緊急性の高い状態です。肺の酸素交換が極端に妨げられるため、呼吸が非常に速くなります。夜間や安静時でも呼吸が速く、溺れるような咳が見られることもあります。利尿剤や強心剤などによる迅速な治療が必要です。

肺炎

細菌やウイルス感染、誤嚥（ごえん）などにより、肺の実質に強い炎症が起こる病気です。炎症により肺の機能が低下し、体内の酸素不足を補おうとして呼吸が速くなります。呼吸が速いほかに、咳、発熱、元気や食欲の低下が見られます。レントゲン検査などで診断し、抗生剤治療や酸素吸入などの集中的な治療が必要です。

熱中症

高温多湿な環境で体温が異常に上昇し、体温調節機能が破綻した状態です。犬はパンティング（浅く速い呼吸）で体温を下げようとしますが、熱中症になるとパンティングが激しくなり、さらに呼吸が速くなります。よだれが多く、歯茎が赤くなり、重症化すると虚脱や意識障害に陥ります。緊急で体温を下げる処置が必要です。フレンチブルドッグなどの短頭種は非常にリスクが高いです。