歯科診療

治療方針

  • ・動物の痛みや不快感をなくすこと
  • ・歯と口の機能をより長く生かすこと
  • ・全身の健康につなげること

最新の獣医歯科の情報や、人の歯科の技術を取り入れるのはもちろん、動物やそのご家族にあった治療を心がけ、最初の治療が終わった後も、1年後も10年後も「ここで治療を受けてよかった」と思える診療を行います。

治療の内容

治療の流れ

診察の日
  • 歯科問診票の記入 問診票
  • 視診・触診・写真撮影など
  • 麻酔前検査:血液検査・X線検査・エコー検査など
  • 仮診断・おおまかな治療方針の決定
  • 全身麻酔の予約
治療の日
  • 入院(治療の日の午前中)
  • 全身麻酔での検査・治療(12時~16時)
    • 歯科X線検査
    • 写真撮影・プロービング検査など
    • 各歯の診断
    • 各種治療
  • 退院(治療の日の午後、または翌日)
    • 検査結果、治療内容の説明
    • 歯磨き指導など
再診の日(治療の数日~1週間後)
  • 視診・触診・写真撮影など
    麻酔後の全身状態のチェック
    歯磨き指導
経過観察・追加治療(治療の1~6か月後)
  • 視診・触診・写真撮影など
    歯磨き指導
  • 必要に応じて全身麻酔での検査・治療(要予約)
    • 歯科X線検査・プロービング検査など
    • 追加治療・メインテナンス
定期的なメインテナンス
  • 目安として1年に1回程度
    要予約・全身麻酔

抜歯をしないためのデンタルケア

歯を維持するためには「ホームデンタルケア」と「メインテナンス」の両方が必要です。

  • ホームデンタルケア=日々の歯磨き
  • メインテナンス=病院での定期的な検査や処置
ホームデンタルケア

歯周病の予防にも、治療にも歯磨きは欠かせません。犬も猫も同様です。
1週間~1か月に1回程度、愛玩動物看護師による歯磨き指導を行います。
犬や猫の性格に合わせて、段階を踏んで指導していきます。

歯磨き指導の流れ
  • まずは口を触る練習から!
  • 口を触られることに慣れたら歯を触ります。
  • 歯ブラシをあてる練習をします。
  • 歯ブラシの当て方のコツや、お口の状態に合わせてポイントをお教えします。

全身麻酔での治療に抵抗がある方も、歯磨き指導だけでも構いません!

メインテナンス

お口の健康な状態を維持するためや、治療後の歯を維持するために、定期的に病院で行う処置を「メインテナンス」と言います。当院の「メインテナンス」は歯科X線・プロービングなどの検査と、スケーリング・ポリッシングなどの処置を、全身麻酔で行います。

メインテナンスの目的

健康な歯を維持する歯石や歯肉溝内異物を除去することで、歯磨きなどでのプラークコントロールを行いやすくし、歯周病や口内炎を予防・改善させます。結果として、不要な治療や抜歯を避けることができます。

疾病の早期発見通常の診察(無麻酔)では、歯や口腔の状態を把握することは難しく、必ず誤診や見逃しが起きます。全身麻酔で適切な検査を行い、歯や口の中の状態を把握することで、疾病の早期発見・早期治療につなげます。

歯周病治療後の歯を維持する歯周病治療を行っても、健康な歯茎と同じ状態に戻るわけではありません。治療で残した歯をできるだけ長く維持するためには、定期的な「メインテナンス」と日々の「ホームデンタルケア」(歯磨きなど)のどちらも必要です。

メインテナンスの流れ
診察の日
  • 視診・触診・写真撮影
  • 麻酔前検査:血液検査・心エコー検査・胸部X線検査など
  • メインテナンスの予約
治療の日
  • 入院(治療の日の午前中)
  • 全身麻酔 (12時~16時)
    • 歯科X線検査
    • 写真撮影・プロービング検査など
    • (歯肉縁上)スケーリング
    • 歯肉縁下スケーリング
    • ポリッシング
  • 退院(治療の日の午後)
    • 検査結果、治療内容の説明
再診の日(治療の数日~1週間後)
  • 麻酔後の全身状態のチェック
    歯磨き指導など

スケーリング(歯石除去)

スケーリングとは専用の器具を用いて、歯に付着した歯垢と歯石を除去することです。
歯垢(プラーク)は歯ブラシで落ちますが、歯石はスケーリングでなければ除去できません。歯石があると表面にプラークが残りやすくなり (プラークリテンションファクター)、結果として歯周病を引き起こしたり悪化させたりします。歯磨きを丁寧に頑張っても必ず歯石は付着してきますので、歯と歯茎の健康のために、定期的にスケーリングを行う必要があります。

スケーリング(歯肉縁上スケーリング)

歯の見えている部分(歯冠部)の歯垢と歯石を除去します。主に超音波スケーラーを使い、細かい部分についてはスケーラーを使って取り除きます。

超音波スケーリングの写真超音波スケーリングの写真超音波スケーリングの写真
歯肉縁下スケーリング

歯周ポケット内の歯石を超音波スケーラーやスケーラーを使って歯石を取り除きます。(歯肉縁上)スケーリングと比較して、歯石が硬い、歯質が弱い、歯茎が近く傷つけないように注意する必要がある、視野が狭いなどの理由から、(歯肉縁上)スケーリングとは異なる器具を使用し、より繊細な作業になります。

無麻酔歯石除去について

American Veterinary Dental College(アメリカ獣医歯科協会)では、動物の無麻酔スケーリングについて、患者と術者の危険性や、治療効果がないことなどの声明が出されています。

AVDC:https://avdc.org/about/#pos-stmts

日本小動物歯科研究会では、「無麻酔下での歯石除去の危険性、歯科処置の危険性」について、示されています。

日本小動物歯科研究会:https://www.sadsj.jp/guideline

動物のスケーリングを行う資格について

獣医師法の第四章第十七条で「獣医師でなければ、飼育動物の診療を業務としてはならない。」と定められており、スケーリングも診療業務にあたるため、獣医師資格を持たない人(医師、歯科医師、歯科衛生士、トリマー、ブリーダーなど)がスケーリングを業務として行うと法令違反となります。愛玩動物看護師は、診療の補助として獣医師の指示のもとスケーリングを行うことが可能です。

農林水産省リンク:https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/zyui/FAQ.html

スケーリングの治療効果を出すために

スケーリングの治療効果を出すためには、資格や麻酔だけではなく、「知識」「技術」「経験」のある者が、適切な道具を使って、適切な方法で行わなければなりません。当院では、スケーリングを含め歯科の知識や手技を日々アップデートし、必要な道具をそろえて適切に管理し、治療効果を上げることができるように努めています。

抜歯

残すことが難しい歯と判断された歯は抜歯をします。

抜歯の判断
診察時
  • 歯・口腔の状態を仮診断
  • 今後の治療・メインテナンススケジュールを相談
    必要な場合に抜歯をするか事前決定
治療の日
  • 全身麻酔下での検査
  • 事前決定に基づき抜歯

通常、歯の検査・診断は全身麻酔下でしか行えず、そのまま治療となります。そのため、事前に抜歯について相談し、事前判断に基づいて全身麻酔中に獣医師が抜歯の最終判断を行います。
麻酔時間の都合上、全身麻酔中に検査結果の説明を行うことはできません。しかし飼主様の希望があれば、1回目の全身麻酔では検査のみにとどめ、検査結果を見てから治療内容を相談し、2回目の全身麻酔で治療(抜歯)を行うことができます。麻酔回数が増えることで、費用が増えるデメリットはありますが、より飼い主様の希望に沿った治療を行うことができ、1回の麻酔時間を短縮できるメリットがあります。全身麻酔の回数が増えることで、リスクが上昇するとは考えておりません。

獣医歯科において抜歯基準というものは存在しません。同じ状態の歯があったとしても、動物の種類、年齢、全身状態、歯磨きがどの程度できるか、今までの治療経過、今後の治療スケジュールによって、治療内容は(抜歯をするかどうかも)変わります。

抜歯の手技

多くの歯は歯肉を切らずに器具を挿入して歯を揺らし抜歯します。
根っこが2本以上ある歯は、機械で分割して抜歯します。
必要に応じて歯茎を切り、歯の周りの骨を削って抜歯します。
抜歯したあとは、穴の中の腐った組織を除去します。
抜歯後、歯科X線を撮影し、根っこが残っていないかのチェックや、抜歯後の骨の状態を確認します。
抜歯したあとの穴は、血の塊がふさぎ、最終的に歯茎で覆われます。
歯茎を切って抜歯した場合は、溶ける糸(吸収糸)で縫います。
縫った歯茎は、数日でくっつきます。吸収糸は1~2週間ほどで糸が緩み取れるか、長くとも3ヶ月程で完全に無くなります。

全身麻酔

現在の獣医療において、全身麻酔は歯科治療や検査に必ず必要です。当院では以下のような流れで全身麻酔を行います。

  • 術前検査による全身状態の把握
  • 飼主様への事前説明
  • 12時間以上の絶食
  • 全身麻酔時
    • 全身状態に合わせた麻酔計画
    • 事前の鎮痛処置・鎮痛薬使用
    • バイタルのモニタリング:心電図・血圧・SpO2・呼気二酸化炭素濃度・呼吸流量
    • 誤嚥防止措置:気管挿管・アスパーガードの設置・口腔内バキューム
  • 覚醒後の監視
  • 退院後の経過観察

歯と口の症状

病気と治療

歯肉炎とは

初期の歯周病で、炎症が歯肉(歯茎)のみにとどまっているものを歯肉炎と言います。歯肉炎はプラーク(歯垢)の中の細菌が原因で起き、歯肉が赤くなったり、腫れたり、出血しやすくなったりします。

症状

歯茎の赤み、腫れ、出血などの症状があります。
赤みは歯茎のふちから始まり、悪化すると全体に広がります。腫れもふちから全体に広がりますが、わかりづらいことも多いです。歯茎が脆くなり、硬いものを噛んだ時や、歯みがきの時などに血がにじむことがあります。歯垢がたまっていると、口臭もするでしょう。

歯みがき

歯周病(歯肉炎や歯周炎を含む)の原因はプラークなので、歯みがきでプラークを除去することが歯周病の予防であり、治療の基本になります。当院では、歯みがき指導を行っていますので、気軽にお声掛けください。

スケーリング(歯石除去)

本来、歯石自体が直接悪さをするわけではありませんが、プラークコントロールを悪化させる原因になります。歯みがきをしていても必ず歯石は付着しますので、定期的にスケーリングをすることで歯肉の良い状態を維持します。

歯周炎とは

歯肉炎が進行し歯周組織に炎症が及んだ状態のことです。アタッチメントロス(歯茎と歯の付着が下がった状態)や、歯の周りの歯槽骨が少なくなり、歯を支える歯周組織が減ります。犬、猫ともによく見られます。歯周病は1本1本の歯について診断しますが、複数の歯周病がみつかることが多いです。心疾患や腎疾患のリスクが上がるという研究もあります。

症状

基本的には歯肉炎の症状と同じで、見た目では歯肉炎と歯周炎の区別は難しいです。
歯茎が下がったり、歯がぐらついたり、痛みや出血を伴うことがあります。重症化すると、歯の種類や状態によっては、抜け落ちてしまったり、口腔鼻腔ろう・外歯ろう・内歯ろうなどを起こしたりします。
全身的な感染の原因になる可能性があり、上述のように全身的な疾患とのかかわりが示されています。

診断

全身麻酔下で、すべての歯について写真撮影、歯科X線、それぞれの歯について歯周ポケットの計測、動揺度・根分岐部の計測を行い、歯周病の重症度を把握します。

歯周基本治療

歯肉炎と同様の治療に加えて、ポケットの中の清掃を行います。
拡大視野で、歯周ポケット内の歯石・歯垢・異物等を除去します。
丁寧にポケット内の清掃を行うことでポケットが減少することがあります(再付着)。
簡単に言うと、歯の見えているところからポケットの中まできれいにするだけの処置ですが、ポケットの中は通常見えないので、様々な器具や機械を駆使して、一切取り残しがないようにするのは容易ではありません。

歯周外科治療

歯周基本治療では十分な効果を認めなかった部位については、歯周外科を行うことができます。
歯肉を切って、ポケット内・歯根を見やすくすることで、見逃しなく歯石除去できます。
歯肉は繊細で傷みやすく、歯根もダメージをうけやすいため、綿密な治療計画や、繊細な手技が必要とされます。

口腔鼻腔ろうとは

上顎の歯がある場所に、口の中(口腔)と鼻の中(鼻腔)をつなぐ穴(ろう孔、ろう管)ができた状態のことをいいます。
本来口と鼻は、骨や粘膜などで上下に部屋が分かれていますが、何らかの原因で穴が開いてしまうと、口の中のものが鼻の中に入ってしまいます。
最も多いのは犬の犬歯の歯周病によるもので、歯周病が悪化し、歯根の周りの骨を溶かすことで、鼻の中とつながる穴ができてしまいます。

症状

口腔鼻腔婁では、食事や飲み水が鼻の中に入ることによって、くしゃみ、鼻水、逆くしゃみ、誤嚥することにより咳や誤嚥性肺炎などが起きることがありますが、穴の大きさ・形・位置によりさまざまで、無症状の場合もあります。
歯周病による口腔鼻腔婁については、特にくしゃみ、逆くしゃみ、膿のような白~黄色の鼻水、鼻血などの症状がみられますが、歯が残っている場合は、見た目ではわかりません。歯が抜けた後は、犬歯があった場所に穴が見えたり、食べかすが詰まったりします。

治療

歯茎や口の中の粘膜をもちいて、穴をふさぎます。
犬歯の歯周病による口腔鼻腔ろうでは、通常、犬歯の温存は難しく抜歯をします。抜歯した穴の中は、膿や細菌に汚染された組織・壊死組織などがありますので、それを取り除いてきれいな状態にします。きれいにしたあと、犬歯の外側の頬粘膜を薄くはがして穴をふさぐように伸ばし、縫合して固定します。
縫合後の粘膜は強度が弱いため、唇を強く引っ張ることや、ふさがった部分を強く押すことがないように注意が必要です。

歯牙破折とは

歯が折れることを(歯牙)破折と言います。
臼歯(奥歯)は固いものを噛むことで折れます。ハサミで切れないものは、歯が折れることがあると一般的に言われています。骨、ひづめ、乾燥アキレス、ヒマラヤチーズ、石、プラスチック製品、木製品などの、硬いものは噛ませないようにしましょう。

犬歯は、ケージを噛んだり、犬同士または猫同士のけんかで折れることがあります。
特に歯が見えている部分が折れることを歯冠破折や縁上破折、歯茎より下の見えていない部分が折れることを歯根破折や縁下破折などと言います。歯が折れて歯髄(歯の中の神経や血管)が見えてしまっている状態を露髄や複雑破折などと言います。

症状

歯が折れることで、神経が見えるたり(露髄)、縁下破折、歯根破折の場合は痛みを伴うことがあります。痛みの程度は様々で、何もしないでもズキズキ痛い、噛むと痛い、触ったり歯磨きすると痛いことなどがあります。
無症状のことも多く、歯みがきの時に見つけられることが多いです。
露髄の状態で治療をしないと、口腔内の細菌が露髄部分から歯髄に感染し、歯髄が壊死したり、歯根の先から歯の周りの骨を溶かしていったりします。頬から膿が出てくることもあります。

治療

露髄や歯根破折がなければ、折れた部分を修復します。
露髄がある場合は、歯内治療(抜髄根管治療、断髄など)を行います。
抜髄根管治療の流れについて、説明します。
根管治療を含めて歯内治療は、必ずラバーダムを装着しておこないます。ラバーダムを装着した後に、露髄した穴を広げるなどして、歯根の歯髄=根管を見えるようにします。次に、ファイルと呼ばれる器具を使用して、根管内の歯髄を取り除きつつ、根管を広げて形を整えます。
拡大形成された根管内を消毒薬などを使って洗浄し、細菌を可能な限り少ない状態にした後、きれいになった根管に薬剤を隙間なく充填します。
根管の充填が終わった後、歯の見えている部分(歯冠部)は、通常コンポジットレジンという歯科用のプラスチックを用いて修復します。

歯肉口内炎とは

歯茎、頬の内側、口の奥(尾側粘膜)、口蓋、舌などの表面が、赤くなったり腫れたりして炎症を起こした状態を歯肉口内炎と言います。特に尾側粘膜の炎症が特徴的で、「尾側口内炎」や「猫慢性歯肉口内炎」などの呼び名もあります。猫全体の数%に起こります。
細菌、真菌(カビ)、ウイルス、歯の病気、アレルギー反応などが原因になると考えられており、呼吸器症状、舌の症状がある場合、カリシウイルス(FCV)感染が疑われます。エイズウイルス(FIV)や白血病ウイルス(FeLV)感染も関連することがあります。
口腔内の腫瘍も見た目が似ていることがあり、診断が重要です。

症状

尾側粘膜や歯茎に激しい炎症がおき、痛みを伴うことが多いです。
食欲がない、特に固いものを嫌がる、激しい口の痛み(触ると怒る、あくびや食事の時の悲鳴)、よだれ、口臭、グルーミングができない、手足の汚れ、歯のぐらつき(口を気にする仕草)などの症状があります。体重低下や全身の病気につながることもあります。

診断

口内の様子を見たり、触って痛みを確認したりして、仮診断します。必要に応じてウイルス検査を行います。食欲や体重が落ちている場合は、他に原因がないかを調べるため、健康診断(血液検査、エコー検査、X線検査など)を行います。
全身麻酔下でのX線検査などと合わせて、炎症を起こしている粘膜の一部を採取し生検・病理検査を行います。

治療

まずプラークコントロールを中心とした内科治療を試みます。スケーリングや歯磨き、消毒などにより、炎症の原因となる口腔内の細菌を減らします。抗生剤、鎮痛薬、ステロイド、免疫抑制剤、食欲増進剤、インターフェロン、サプリメントなどを使用することがあります。
実際には、痛みが強く歯磨きができない場合や、歯周病が進行して歯の温存が難しい場合など、内科的な治療が難しいことも多々あります。

プラークコントロールが難しい猫や、上述の内科的な治療を試みても改善が乏しい場合は外科治療が適応されます。外科治療としては、すべての奥歯を抜歯する全臼歯抜歯術または、前歯含めてすべての歯を抜く全顎抜歯術を行います。歯が折れての歯根だけ埋まっていることも多く、この治療においては、特に歯根を残さないよう注意しています。
抜歯を行った後は、多くの猫が数日~半年程かけて徐々に炎症や痛みが改善されます。
症状が改善されるまでの期間や、手術による治療効果が不十分な猫には、薬や点滴、食事管理などの内科治療を継続します。

乳歯晩期残存とは

歯の生え変わりの時期を過ぎても、乳歯が抜けないことです。
犬や猫も人と同様に、一生に一度だけ乳歯から永久歯への生え変わりが起こります。その生え変わりは通常、切歯から始まり、犬歯や臼歯はほとんど同時期に生え変わります。生え変わりの時期は、犬で3か月齢~7か月齢ごろ、猫で3か月齢~6か月齢ごろです。乳歯が抜けるタイミングは、同じ位置の永久歯が生えてくる直前から、永久歯の1/3~1/2が生えるまでの間の時期です。抜けるときには、乳歯の歯根は溶けてなくなっていますので、歯の見えている部分(歯冠部)だけが抜けます。
乳歯がうまく抜けない理由として、永久歯と乳歯との位置関係、永久歯が埋伏歯である、永久歯が欠如歯であることなどが影響すると考えられます。特に小型犬で頻発します。
乳歯が晩期残存すると、永久歯の不正咬合、乳歯の破折、歯周病を悪化させる要因となります。

診断

前述のように乳歯は、6-7か月齢ごろまでに生え変わり、同じ位置の永久歯の1/3~1/2が生えてくるまでに抜け落ちるはずですから、それ以降の時期になっても乳歯が残っていた場合を乳歯晩期残存とします。
乳歯と永久歯の区別は、歯の形態・位置、歯科X線などから判断します。
どの乳歯でも晩期残存することがありますが、特に小型犬では多く見られます。

治療

基本的に、全ての残存乳歯の抜歯を推奨しています。
永久歯がない部位に残る乳歯については、残しても問題が起きないかもしれません。しかし、乳歯の強度は低く、歯牙破折の原因になったり、歯根吸収が早期に起きたりして、結局抜かなければいけないことも多いです。
機能的にも、永久歯の機能の代わりになることは少ないと考えています。

歯科治療 Q&A

高齢だから全身麻酔をできないということはありません。
全身麻酔はどの年齢においてもリスクを伴いますので、まず術前検査(健康診断)を行ってリスクが高いのか低いのかを把握します。そのうえで全身麻酔を行うか相談させていただきます。
16歳のわんちゃんや18歳のねこちゃんなど高齢の動物でも、必要であれば全身麻酔下で治療を行うことがあります。

動物が協力的であれば全身麻酔をかけずに歯石除去を行うことはできますが、原則当院では行っていません。理由は以下の通りです。
歯石除去は動物にとって、とても不快です。
動物が想定外の動きをしたときに、動物・獣医師(看護師)の両方が危険にさらされます。また、動物の循環器や呼吸器に致命的なダメージを与える可能性があります。
全身麻酔下でなければプロービングや歯科X線などの検査がおこなえず、歯の状態がわからないままの歯石除去になります。
歯周ポケット、歯間、歯の裏側を正確にスケーリングすることができません。

理想は毎食後ですが、実行するには大変な時間と労力が必要です。
1日1回みがけたら十分でしょう!
夜の空いている時間などに磨くといいです。
1度に全てみがこうとせず、部分ごとに時間を分けてみがくのもいいです。
毎日行って日々の習慣に組み込んでいくことで、続けやすくなります。

目安としては1年に1回程度を推奨しています。
動物の体調、歯の状態、歯みがきの具合などによって頻度は変わります。
逆に考えると、今後のメインテナンスの予定(3か月後の予定なのか、1年後の予定なのか、最後の全身麻酔にしたいのか)によって治療の内容も変わりますので、初回の治療時に飼主様のご意向をうかがい、治療プランを決めていきます。

効果はありますが、残念ながら歯ブラシのかわりにはなりません。
歯みがきシートは歯の表面をきれいにすることはできますが、ポケット・歯の溝・歯と歯の間をみがくことはできません。むしろ歯みがきシートにより、すき間に歯垢を押し込んでしまう可能性があります。
歯みがきシートは歯ブラシ前の練習として使っていただき、最終的には歯ブラシに切り替えていただくことをお勧めしています。
また、歯磨きシートは誤食が多いので、使用の際は注意しましょう!

製品によっては多少効果がありますが、歯みがきのかわりにはなりません。
また、与えっぱなしではほとんど意味がないでしょう。
使用法についてはサイトを参考にされてください。
歯みがきのあとにご褒美として与えることがお勧めです!

与えてよいです。
むしろ軟らかいフード、手作り食、ふやかしたドライフード、おやつ類は、抜歯後の穴や歯茎を縫った隙間に入り込みやすいため、可能であれば避けていただいています。

基本的には歯みがきをしていただきます。
ただし歯を抜いたり、歯茎を切ったり縫ったりした部分は、触らないようにしていただきます。
また、治療前から痛みが強い場合はすぐに歯みがきをせず、治療後に痛みが落ち着いてから歯みがきを始めていただきます。痛みが強い状況で歯みがきを行うと、歯みがきをきらいになってしまいます。

ウェットフード、手作り食、ふやかしたドライフード、おやつ類は、ドライフードに比べて歯に残りやすく、そのままにしておけば歯垢の原因になりやすいです。
しかし、日々の歯みがきや定期的なメインテナンスを行えば、十分清潔な口腔内を保てます。
逆に歯みがきを行わなければ、ドライフードでも口腔内の衛生環境は悪化します。

歯が折れるので、骨、硬いチーズ、ひづめ、アキレス、硬いプラスチック製品、木製製品、石、金属製品、ケージを噛ませないでください。歯が折れます!
ひとつの基準として、ハサミで切れないものは、歯でも噛み切れないため与えないようにしてください。

歯科機器の紹介

歯科X線検査装置
歯科X線検査装置歯科X線検査装置

歯専用のレントゲン検査装置です。
歯根、歯の周りの骨(歯槽骨)、歯の内部は、直接見ることができません。
歯科X線検査は、これらの状態を知るために必須の検査で、歯科診療において欠かせない検査です。
当院では全身麻酔下で歯科治療を行う際、必ずすべての歯のX線を撮影します。

歯科ユニット(NSK VIVAace)
歯科ユニット(NSK VIVAace)歯科ユニット(NSK VIVAace)

超音波スケーラー・モーター・3wayシリンジ・バキュームが一体になった機械です。
「超音波スケーラー」は主に歯石除去に、「モーター」は歯や骨の切削・切断・研磨に、「バキューム」は口腔内の唾液や水分を吸引するために使用します。
歯科治療に必要な様々な機能があり、なくてはならない存在です。

マイクロスコープ(Leica M320-V)
マイクロスコープ(Leica M320-V)マイクロスコープ(Leica M320-V)マイクロスコープ(Leica M320-V)マイクロスコープ(Leica M320-V)

動物歯科・手術用の顕微鏡です。当院では、ほとんどの歯科治療でマイクロスコープを使用しています。約3倍~20倍の拡大視野で観察できるため、治療精度が上がります。
必要に応じて、そのほかの手術でも使用することがあります。

スケーラーなど
スケーラーなど

歯の表面や、歯根の表面についた歯石を除去するための器具です。

歯科器具(持針器、攝子、エレベーター、抜歯鉗子)
歯科器具(持針器、攝子、エレベーター、抜歯鉗子)

歯肉の縫合や、抜歯に使用する器具です。

歯周外科器具
歯周外科器具

歯肉や歯周ポケットの中を扱う、細かい作業を行う器具です。
歯周病の治療のうち、特に歯肉外科治療で使用します。

エンドモーター(MORITA トライオートZX2)
エンドモーター(MORITA トライオートZX2)エンドモーター(MORITA トライオートZX2)

エンドモーターという歯科機器です。歯内治療(根管治療)において、根管の拡大形成などに使用します。

ニッケルチタンファイル、手用ファイルなど
ニッケルチタンファイル、手用ファイルなど

ファイルとは表面がギザギザした針のような器具で、様々な形状、太さ、長さ、材質のものがあります。
歯内治療(根管治療)において、エンドモーターの先に装着したり、手で直接もって、根管を拡大形成するためなどに使用します。

コンポジットレジンなど
コンポジットレジンなど

コンポジットレジンとは、歯の欠損部を補うために使用するプラスチックです。
ユニシェードという、様々な色の歯に適合しやすいコンポジットレジンも使用しています。

ラバーダム
ラバーダム

歯科治療において、歯の周りを囲うシートをラバーダムといいます。
唾液が治療中の歯内に入らないように、あるいは歯科器具や洗浄液が口腔内に入らないようにするために使用します。
当院では、全ての歯内治療でラバーダムを使用します。